青と口笛に寄せられて



お客様が来る時間まであと30分くらいあるから、いったん家に戻ってお茶でも飲もうということでぞろぞろと歩き出すみんなにくっついて、あったかいコーヒーに思いを馳せていたら。
後ろから肩を叩かれた。


「どこ行くんだよ」


想像通りの啓さんでした。
もうすでにパンク寸前の頭にこれ以上の知識は入れられませんよ、という気持ちで「はいっ」と元気よく返事をする。


「客が来る前にソリに乗る練習だ」

「あ、なるほど……」


疲れた体を休めたい……なんてワガママは言えない。
ソリに乗って自分で操縦してみたいっていう気持ちの方が強かったから。


青空の下で犬たちはリードに繋がれたままのんびり思い思いに過ごしている。
そこへやって来た啓さんは、ごくごく普通に私に向かって尋ねてきた。


「あんた、体重何キロ?」

「…………へっ!?」

「体重。何キロ?」


いやいや、聞こえてますよ。
でもレディーに体重聞くのとか、ちょっと失礼じゃありませんか!?


「こ、答えられません……」

「そんなにデブなのかよ」

「違いますっ!でもほら、体重ってデリケートな部分っていうか……、ねぇ?」


面倒くさそうに顔をしかめた啓さんは、今日何度ついたか分からないため息をまたついて、


「体重に応じてソリ犬の頭数と犬種決めっから。さっさと答えて」


と再度答えを要求してきた。
これは答えるまで追求されるやつだ。間違いない。
こんなことなら本気でダイエットしとくんだった。
お正月にお餅とか食べすぎたりしなければ……。


「45キロとかそんくらいだろ、どうせ」


ドンピシャで啓さんに体重を言い当てられ、思わず「その通りです」と言うような目で彼を見つめてしまった。
彼は呆れ半分の顔で私を見ていた。


「なにも隠す体重じゃないしょ。2回もおんぶさせといて」

「その節は大変お世話になりました……」

「苦しゅうない。……ってことで、ローラとマイクを連れていく」


どうやら決めたらしい2頭の犬のリードを私に握らせた啓さんは、ソリを1つ持って「こっちだ」と歩いていく。
見たところシベリアンハスキーとアラスカンハスキーと思われる犬たちだ。
彼はのろのろついてくる私に、


「メモっておけ。犬が引っ張ることが出来るのは自分と同じ重さのものだってこと。こいつらは大体1頭25キロだから、ソリと合わせてもまぁちょうどいいべ?軽すぎても重すぎても犬にとっては走りつらいんだわ」


と言った。


なるほど……。
やっぱりきちんと意味はあったんですね……。
答えを渋ってすみませんでした。
と、いう思いを抱えながら、セカセカと彼の後ろをついていった。