青と口笛に寄せられて



「左腕につけろよ。ま、どうせ客に色々聞かれてもなんも答えられないだろうから、その時は俺に言って」

「はーい」


その通りなので反論はせずに従順にうなずく。
真新しい名札を左腕に通して、二の腕のあたりに取り付ける。
私のすぐそばで、麗奈さんの優しい声。


「啓。つけてあげる」

「うん、頼むよ」


もう何年も前からそうしているように、当たり前のように。
麗奈さんが啓さんの左腕に彼の名札をつける。
昨日も見た光景。


これは……この雰囲気は……。
普通に考えて付き合ってるんじゃなかろうか、2人は。
だとしたらお似合いすぎてたまらない。


「あ、深雪ちゃんも曲がってる。直すよ」


ぼんやり2人の姿を眺めていたところへ麗奈さんがやって来て、私の左腕の名札を丁寧に直してくれた。
直してくれている最中に彼女の伏せられた睫毛の長さを確認して、なんて女性らしい人だろうと思った。
そりゃこんな綺麗な人を、若い男が放っておくわけがあるまい。


「おい、犬舎に行くべ」


しっかり名札である腕章をつけた私に、啓さんが声をかけてくる。
ハイ、といつものように返事をして彼について犬舎へ向かった。