青と口笛に寄せられて



昼食らしき大きな鍋を蓋が開かないようにガッチリ閉めた泰助さんが、鍋をバスケットに乗せて倒れないようにしっかりと固定する。
鍋は特殊なものを使っているらしく、きちんと開け方を知っていないと開けられない仕組みになっているらしい。


「ロッジに届けてくるね」

「分かりました、お願いします」


泰助さんは啓さんに声をかけて、彼の返事を聞いたあとソリを引っ張って倉庫を出ていった。
彼の後ろ姿を見送ってから、私の疑問を啓さんに聞いてみる。


「あれはどこに届けられるんですか?」

「昼食をとる場所。離れたところにロッジがあって、ツアーではそこまで犬ゾリで向かうんだわ。で、ロッジで昼食をとって、折り返して帰る、っていう流れ。今日はあんたにも同行してもらう」

「え!じゃあ犬ゾリ乗れますか?」

「操縦させてやっから」

「やった〜!」

「客の前ではしゃぐんじゃないぞ」

「…………はーい」


まるで学校の先生と生徒だ。
でも仕方ない。
自分で操縦してみたかった犬ゾリに乗れるのだから、テンションが上がってしまうのも無理はない。


「啓」


倉庫の入口から、不意に聞こえた張りのある麗奈さんの声。
彼女の手には何かが握られている。


「深雪ちゃんの名札、出来たわよ」

「あぁ、どうも」


啓さんは麗奈さんの手から腕章を受け取ると私にそれを差し出してきた。
『TEKURA DOGSLED staff 滝川深雪』と書いてある。
これは、従業員である証!


「ありがとうございます」


受け取ってニヤニヤ。