青と口笛に寄せられて



怒涛の1日が始まった。
覚えきれないことを覚えなければならない初日。
思っていたよりも、はるかにハードだった。


ソリが並ぶ倉庫に連れてこられた私は啓さんの説明に耳を傾け、そしてメモを取るため必死にペン先で書き殴る。
あとから読んだら読めないかもしれない、ってほどに書き殴る。
書き…………殴る……。


「まず、マッシャーが操るこのソリの各部位の名称な。両手で握るこの部分がハンドル。足元のブレーキを踏むとスピードが落ちる。合わせて犬たちに声をかけるといいんだが、それはまたおいおい。

で、マッシャーが乗るのはこのスタンディングボードって言ってソールの内側にある少し太い部分に両足を乗っけて……。

……聞いてるか?続けるぞ。

外でソリから降りて休憩を取る時は、ソリが勝手に滑らないようにこのアンカーっていうのを雪に食い込ませて止めておくこと。

あと、前方のフラッシュボウにブライドルは繋がないでくれ。壊れるから。必ず根っこのこの辺りに繋いでほしい。
タグラインはブライドルに繋げて犬たちのリード、ハーネスに通じてるから、絡まないように気をつけて。

それから………………。

おい、大丈夫か?」


ぐちゃぐちゃになったメモ用紙をガン見していたら、心配そうに啓さんが顔を覗き込んでくる。


「は、はい……。いや、大丈夫じゃないです……。ハンドル、ブレーキ、スタンディングソール」

「スタンディングボード」

「あ、ボードですか……。アンカーがここの部分で、ブライボンがこれで……」

「フラッシュボウ、ブライドル、タグライン」

「フラッシュボウ、ブライダル、たくわん……」

「ふざけてるべ!」

「すみませんっ」


間違いだらけのメモに線を引きながら顔を強ばらせる。


「啓さん、覚え切れません」

「だべな。別に期待してないわ」

「がーん」


もはやコントのような会話を繰り広げていたら、倉庫の奥の方でソリの点検をしていた泰助さんに笑われた。
面白そうに肩を震わせて「いいコンビだね」って。
冗談きついです、本気で。