「いずい?」
「みんな啓って呼ぶから、そう呼んで」
「は、はい……。あ、そういえば、啓次郎っていう顔に似合わない古風な名前なんですよね」
「今ドキの読めない名前よりはマシだべ」
「確かに……」
同意しながら彼の顔を見上げると、彼の鮮やかな青い瞳と目が合った。
これは……5秒以上見つめ合ってはいけないと誰かが警鐘を鳴らしている!誰かは知らんけど、「深雪!しっかりしろ!」って叫んでる気がする!
即座にものすごい勢いでグインッと目をそらして、
「それでは今から『啓さん』と呼ばせていただきますっ」
とそれだけ一気に言い切って、さっさと家の中に早足で飛び込んだ。
水戸黄門の助さん格さんみたいなもんだよね、啓さんなんてさ!
さぁ、お腹空いたからご飯ご飯、っと。
コソッと携帯で調べた。
「いずい」って何なのか。
そしたら、北海道弁ってことが判明した。
「違和感がある」「しっくりこない」「フィットしない」「居心地が悪い」「気持ちが落ち着かない」……
そんな感じの意味らしい。
なるほど、彼は「井樋さん」と呼ばれるとどことなく違和感を感じたってわけだ。
若い人はそうでもないけど、中年の人は言葉のイントネーションも標準語とは少し違う気がする。
ところどころ独特の話し方だったりする。
そういう部分もすり合わせて、順応していこう。
助さん格さん啓さん、みたいな感じで。



