朝食をとるために犬舎を出て、メモを確認しながら下を向いて内容を頭に入れるためにブツブツつぶやく。
この仕事を私がやることになるなんて思ってはいないけれど、犬ゾリについてきちんと学ぶなら全て知っておきたい。
起きてから2時間ほどしか経っていないのに、雪かきですでにちょっと疲れていて、なおかつ頭もパンクしそうだった。
「1日で覚えなくてもいいからな」
「あ、はい……」
わりと彼にしては優しめの言葉をかけてくれたので、素直にうなずく。
まだメモを見ている私に、井樋さんはどこか含んだような口調でボソッと言うのが聞こえた。
「あと、下ばっか向いてると上から雪が降ってくるから気をつけろよ」
「………………え?雪?」
聞き返したと同時に、ドサッと頭に雪をかぶった。
冷たさと衝撃で、しばらく動けない。
呆然とする私からハッキリと顔をそらし、彼は明らかに笑いをこらえているような顔をしていた。
「言ったしょ。雪が落ちてくる、って。屋根の上にも雪はあるんだから」
「………………井樋さん……早く言ってください……」
頭にかぶった雪を必死に払っていると、井樋さんが近づいてきて一緒になって私の体についた雪をパタパタと落としてくれた。
むくれる私に、
「さっきから井樋さん、って。いずいから止めてほしいんだけど」
と彼がつぶやく。
「いずい」ってなに?初めて聞いた、その言葉。



