青と口笛に寄せられて



「あんなこと、ってなに?」


そこ突っ込むの?って思うところに興味を持ったらしい井樋さんが首をかしげている。
ヤバい、墓穴掘った。
瞬時に悟ってそれらしい理由を探す。
ダメだ、焦って見つからない。


「そんなに酷い体験なわけ?」

「あー……、まぁ、それはいいじゃないですか……。置いておきましょうよ、私のことは」

「俺のこと聞いておいてそれは無いしょ」


それは一理ありますね。
でも言いたくないんです。特に男の人には。
心の中で聞こえもしない言い訳をして、話題を変えようと犬舎の中を見回す。


「ワンちゃんたちは全部で何頭ですか?朝ご飯は今からですか?」

「え?あぁ、犬は全部で31頭いる。朝食は…………、って話変えるなよ」

「あ、バレました?」


しつこく追求されるかと思いきや、そんなことは無かった。
彼はそれ以上私の「あんなこと」ってやつを聞いてくることはなくて。
朝の仕事の流れを説明してくれた。


犬たちの体調チェックのあと、私たちは家に戻って朝食を取る。
朝食後はチェックした犬たちの様子を元に体調に合わせた食事作りをする。(なんとそれも井樋さんが作るらしい!ビックリ!)
犬舎の掃除は種田さんか泰助さんがやってくれるみたい。


で、体験ツアーの申し込み人数を確認したらソリの準備を済ませて、お客様用の昼食を宿のキッチンに取りに行き(昨日のメニューはビーフシチュー)、それらを昼食ポイントまで運ぶ。
どこで昼食をとるのかは後々教えてくれると言っていた。


まだまだ教えることはあるけど、まずはそれだけメモを取れ。
……と言われたので、出来る限り漏れなく書き留めた。