青と口笛に寄せられて



1頭1頭見て回る井樋さんにくっついて歩きつつ、さっき麗奈さんに聞いていたことを彼にも尋ねてみることにした。


「井樋さんって、ここに勤めて長いんですか?」

「4年。その前に高校の時は3年間ここでバイトしてたけど」

「え!地元の人なんですね〜。ずっとここに勤めてるのかと思ってました。まだ4年なのにその貫禄……」


言いかけて、井樋さんの刺すような視線を感じたので途中で止めた。
コホン、と咳払いしてごまかしていると、彼が面倒くさそうにため息をついて話してくれた。


「高校卒業してからは、約5年カナダに行ってたから。犬についての勉強もそうだけど、マッシャーの訓練を受けて犬ゾリのレースに出たり」

「カナダ!!……あ、ひいおじいちゃんがカナダ人なんでしたっけ?」

「まぁ、そう」

「綺麗ですよねぇ」

「何が」

「井樋さんの目が」


何気なく言って、彼の青い瞳を見つめる。
あー、やっぱり本当に綺麗な色。
どこか深みがあって、柔らかくて、いつまでも見ていられるような神秘的な色。


じーっと見つめていたら、いつの間にかかなり近い距離まで寄ってしまっていたことに気づいて、慌てて離れた。
同時に彼も顔ごと私から背けてしまった。
気分を害してしまった、と申し訳ない思いに駆られつつ謝る。
一瞬ドキッとした気持ちにフタをする。


「あまりにも綺麗で、つい!すみません!」

「気にしてない」


答えて、また作業に戻る。
仕事に対してはかなり真面目な人のようだ。
私の世間話に付き合ってはくれているけど、仕事の手を止めているというわけでもない。