ひと通り除雪を終えた頃、すでに私のお腹はグーグー鳴っていて、今すぐにでもご飯をかき込みたい気分だった。
ところが世の中そううまくいくはずがない。
みんなが朝食を食べに続々家に入っていく中、井樋さんに呼び止められた。
「まだ仕事が残ってる」と。
「犬舎に行くぞ」
「あ、はい」
言われるがままに連れられて、彼とともに犬舎へ向かった。
それまでそんなに鳴き声とかは聞こえてこなかったのに、人の気配を感じたからか犬たちが急にワンワン吠え出す。
中には飛び跳ねて喜んでいる犬もいたりして、表現の仕方は様々だ。
「除雪のあと、必ず犬の様子を見に来る。体調が悪そうなのがいたらチェックしておかないといけないからな。その日のコンディションによって、ソリを引く犬を決めるんだ」
井樋さんはキャンキャン騒ぐ犬たちの檻の前をゆっくり通過しながら、何かバインダーみたいなものに挟まれた紙にボールペンで記入していく。
たぶん、彼らの体調を書き込んでいるのだろう。
私はひたすらメモ帳に井樋さんの言葉を書き留めていた。
「へぇ〜。チェックは井樋さんが1人でやってるんですか?」
「基本的には」
「こんなにたくさんの犬を、1人で?」
「だから何」
面倒くさそうに私を横目で見てくる。
私はふふふ、と笑みを浮かべて彼に言った。
「凄いですね!超責任ある仕事を、たった1人でやるなんて!」
「別に大したことじゃないべ」
プイと顔をそらした井樋さんがまた作業に戻る。



