開き直った女ほど厄介なものはない。
それを井樋さんは悟ったらしく、これ以上悪態をついてくることは無かった。
代わりに、手に持っていた何かをポンと投げてよこされた。


それは防水の黒い厚手の手袋だった。


「余ってたから、あんたにやる。明日は5時に起きろ。起きたらすぐに除雪作業だべ。寝坊したらハーネスつけて東京に引っ張ってっからな」

「そ、それは嫌です!起きます!早起きは得意で……」

「うるさい。おやすみ」


こっちがまだ話している最中だっていうのに、バタンと音を立ててドアを閉められてしまった。


「おやすみなさい……」


誰もいないドアに向かってつぶやいた。


受け入れてくれてるのかそうじゃないのか、非常に分かりづらい人だなぁ。
でも仕事に対してはかなり厳しそうだから、明日から覚悟しておかないといけないな。


再びベッドに腰かけた私は、携帯を手に取って実家に電話した。


「あ、お母さん?うん、私。
連絡遅れてごめんね。まだ北海道にいるの。紋別。
実はね、このまま北海道で住み込みで働くことになりました。

………………そんなに驚かないでよ。詳しいことはあとでメールで送るから。

でね、お願いがあるの。

実家に戻った時に持ち帰った一人暮らしの荷物、私の部屋にダンボール箱に入ったままだと思うの。それを、今から言う住所に送ってちょうだい。

……だってキャリーケースひとつしかないんだもの。着る服も無いよ。だからお願い。

よろしくね」


電話の向こうでお母さんはアタフタしてたけど、後半は大爆笑していた。
何があったのよ、よっぽど楽しいこと見つけたのね、って。


そうだよ。見つけたよ。
やりたいこと、見つけたんだよ。
手袋をギュッと握りしめて、同時に頬を緩ませた。


明日から早起きだ。
早めに寝て、しっかり休もう。


電気を消して、ベッドに横になった。