うひひひひ、と止まらない笑いを枕で押し殺していたら。
コンコン、とドアをノックする音が聞こえて慌てて飛び起きた。


「はいっ!どうぞ!」


私が返事をすると、ドアが開いて井樋さんが顔を出した。
お風呂上がりなのか、アッシュグレーの綺麗な色の髪の毛がしっとりしている。
部屋着からチラッと見える鎖骨がちょっといつもと違う雰囲気を醸し出していて、微妙に色っぽかった。


黙っていれば素敵よね、と失礼なことを思っていると、彼は早速毒を吐いてきた。


「あんたさぁ、本気なのか?参加するのと働くのとじゃワケが違う。3日で辞めますとか言われたら困るんだわ」

「や、辞めませんよ!」

「体力使う仕事だぞ?あんたすぐ倒れるんじゃないの」

「体力には自信あります!」


両手でガッツポーズを決めて見せたけど、彼は胡散臭そうに目を細めるだけ。
完全に私のことは拒否している模様。


「井樋さんが言ったんですよ、私に」


私は彼の青くて澄んだビー玉みたいな瞳を見つめて微笑んだ。


「またここに来ることがあったら犬ゾリの楽しさを教えてやる、って。だから私は、ここに戻ってきたんです。教えて下さい。犬ゾリの魅力を」

「…………………………俺のせいかよ」

「起爆剤でした、あなたの言葉が」

「最悪だ。ド素人」

「なんとでも言って下さい。前の会社でも色々貶されてるんで、慣れてますから」