見覚えのあるレンガ造りの建物。
その向かいに建つ、大きな木造住宅。
手前にある広い駐車場にタクシーを停めてもらって、キャリーケースを抱えて降り立った。


時刻は22時半。
この時間なら昨日もまだみんな起きていたし、ザッと見た感じでは灯りがついているから大丈夫そうだ。


震える指でインターホンを押す。
外は雪が降っていた。
肩についた雪を手で払っていたら、スピーカーから泰助さんの声が聞こえた。


『どちら様ですか?』

「滝川ですっ。滝川深雪です!」

『えっ!?』


名前を名乗ると、泰助さんがとても驚いているような声が割るような音で耳に届いた。
少し奥の方で「なになに?」「うそー!」とか、たぶん他の従業員の人たちが騒いでいるのが分かった。


パタパタと足音がして、玄関の灯りがつけられる。
鍵が外れて、ドアが開かれる。
そこには目をまん丸に見開いた泰助さんの顔があった。
彼のすぐ後ろには裕美さん。
続くようにして井樋さんや麗奈さん、名前は分からないけど昨日の夜に食事を一緒にした人たちが勢ぞろいしていた。


全員、面白いほど同じ顔をしていた。
まるで幽霊でも見たかのような顔。


「ど、どうしたの!?飛行機乗れなかったとか!?とりあえず中へ……」


慌てたように泰助さんが私を家の中に入れてくれた。
とりあえずキャリーケースを下ろしたあと、私は意を決して白い封筒を取り出す。
その中から履歴書を抜き取って広げ、泰助さんによく見えるようにして差し出した。


彼がそれを受け取るより先に、ガバッと勢いよく頭を下げた。
顔と膝がくっくんじゃないかってくらいに。


「雑用でも掃除でも雪かきでも、なんでもやります!ほんの少しでもいいから役に立ちたいです!雇ってもらいたくて、どうしても諦められなくて戻ってきました!やる気だけはあります!お願いします!ここで働かせて下さい!!」


私の人生が、変わった瞬間だった。