青と口笛に寄せられて



ソリのひとつに、布みたいなものをセットしている井樋さんの動きを眺める。
どこかからか取り出したベルトのようなものをソリに取りつけて、さっきキッチンから持ってきた鍋は隣のソリのバスケット部分に移動させた。


「よし、行くか」


と井樋さんに促されて、私たちは倉庫を出た。
何かの腕章みたいなものをダウンの上から左腕につけた彼は、外で待っていた麗奈さんが犬を4匹連れているのを見つけて声をかける。


「麗奈、ハーネスのチェックは?」

「終わってる」

「どうも」

「あ、啓」


行こうとする井樋さんを呼び止めて、麗奈さんが彼の左側に回り込む。
彼女は井樋さんがたったさっきつけたばかりの腕章を、手袋を外して直してあげていた。


「名札、ちゃんと見えるようにつけてよね。…………はい、これで大丈夫」

「うん。ありがとう」


2人の会話と慣れたような仕草が、まるでスーツを着た旦那様のネクタイを直す奥様みたいで。
ちょっとだけ陰でドキドキしてしまった私。
だって美男美女なんだもの。


2人は協力しながらソリに犬たちのハーネスを繋いでいく。
犬たちはされるがまま、大人しく待機している。


くるりとこちらを向いた井樋さんは、もうゴーグルを下げていてあの青い瞳は見えなくなっていた。
代わりに麗奈さんが直した左腕の腕章のような名札の文字を、はっきり見ることが出来た。


『井樋 啓次郎』


え、「啓」とか「啓くん」とか呼ばれているから、てっきり「井樋啓」って名前かと思ってた。
見た目に似合わず、案外古風な名前。


「なにボサっとしてんだ。歩け」

「はいっ」


条件反射で体育会系の返事をして、「いってらっしゃい」と笑顔で見送る麗奈さんに手を振った。