このあたりから、私の心はウズウズしていた。
どうしよう、胸のあたりが弾んでるなぁ。
だって約1名を除いて、ここで働く人たちってみんなおおらかで、そして懐が深い。
するりと私の全部に馴染んで、優しい風を吹かせてくれる。
その証拠に、さっき会った麗奈さんともっと話したいなって思ってるし、今現在一緒にキッチンに立っている双子料理人の聖子さんと好子さんも、強烈なまでのトーク力で私を迎え入れてくれている。
大雑把に、だけど寛容に、私の過去を剥がしていったのだ。
「ええっ?じゃあ、何?恋人の浮気相手は深雪ちゃんの後輩だったってことなの?」
「なによそれ!男はこれだから嫌になるわよね。深雪ちゃんも辛かったしょ。でもなかなかいないんだわ、一途な男って」
「そうそう、見つけられないから私たち、いつまでもこうやって売れ残ってるんだけどね!」
「おほほほほ!」
「おほほほほ!」
双子のトーク力に圧倒されながらも、かろうじて「あははは……」と笑いを返す。
すごいな、話しながらも料理をする手は一切止まってない。プロってこういうこと?
「でも助かったわ〜!可愛い子が新しく入ってくれることになって。男性客も増えるべ、きっと」
「ねー!ソリの方、尚美ちゃんが辞めちゃって人手不足だったから」
んん?
盛り上がる双子料理人の会話に、何か引っかかるものを感じた。
でも、この2人のマシンガントークに口を挟む余裕などない。
「麗奈ちゃんはもともとこっちの仕事なのに、昼間はソリの人手が足りないからってここ最近は駆り出されちゃってね」
「厨房を私たちだけで回すのは辛いんだわ!カムバック、麗奈ちゃん!」
「啓くんは口は悪いし厳しいけど、腕はいいから!しごかれるのは確実だべ。でも耐えたらあなた、間違いなくいいマッシャーになれるべさ」
あ、また出た。
「まっしゃ」とかなんとか、そういう単語。
専門用語?
あと、引っかかっていた疑問がすぐに解けた。
彼女たちの会話から1人スタッフが辞めてしまったということは分かった。
だから従業員用の部屋がひとつ空いていたのだ。
そして、聖子さんと好子さんは、私がここで働くことになった新しいスタッフだと思い込んでいるらしい。



