啓さんは返事をするより先に、私を抱き寄せてくれた。
こうされると即座にドキドキすることを、何ヶ月か振りに思い出した。


私は両手を彼の背中に回して、体を預けた。


「待ってっから。焦らずにしっかり治して、戻ってきて」

「はい」

「…………こっちで変な男に絡まれたりしてないべな?」

「担当のPTの先生がイケメンですが、全く相手にされません」

「それならばヨシ」


ふふふ、と思わず笑ってしまった。


「笑ってる場合じゃないしょ。カイの担当は深雪なんだから。冬までに一人前にしないとだめだべ」


一気に現実に引き戻されるようなことを耳元で言われて、私はピシッと固まった。
それを見て彼は笑っている。


「冗談だべ。カイも待ってっから」

「………………はい」


私と啓さんは見つめ合った後、そっと顔を近づけて……、そして…………。


「ちょっとごめんなさいねえええ、タオル忘れちゃって〜!ボケてきたのかしらねぇ〜!…………………ってアレ?」


突然部屋に舞い戻ってきた南田さんの声で、私はベッドに突っ伏し、啓さんは反射的に部屋の隅へ移動していた。
この不自然な光景に、南田さんは眉をひそめる。
笑いをこらえる政さんの視線が痛かった。


だけど、私は幸せだった。


きっとこれからはもっとリハビリを頑張れる。
そんな気がした。