また彼の口から、ごめん、と出た。
私の胸がチクリと痛む。
「深雪には残ってほしかった。東京へ帰ってほしいなんて思ってなかった。だけど……、もしかしたら家族のために戻る決断をするかもしれないって先読みしてしまったんだわ。そのためにも俺は邪魔になっちゃいけないって」
「もっと早く…………言ってほしかったです」
私は口を尖らせて不満なのをあえて全面に出して言ってやった。
「人の気も知らないで、啓さんったらあんな風に言ったりするから。私、悲しくて悲しくて、仕事も手につかなかったんですからね!」
「ごめん……」
「でも、もういいんです。私、決めましたから」
ニッコリ笑ってそう言うと、啓さんが首をかしげて「何を?」と尋ねてきた。
「私は、北海道に帰ります。やっぱり犬ゾリが好きだから。家族とも話しました。…………ちゃんと認めてもらえました」
今なら自信を持って言える。
どっちつかずな態度を取らなくとも、自分の意思をきちんと伝えることができる。
「好きな仕事が出来て、それを好きな人とできるなんて、こんな幸せなことはないですから。だから……」
ビー玉のような青い瞳と、しっかり目を合わせる。
「帰ってもいいですか?あの場所に」