「方向音痴なのはお母さんたちも知ってるでしょ?それで、ボーッとしてたら迷って、気づいたら真っ白な雪の中で迷子になってて。こっちで起こった嫌な事とか思い出して悲しくなってね…………」
話しながら、あの時のことを思い出していた。
啓さんに初めて会ったときのこと。
ゴーグルとネックゲイターで顔は全然見えなかったけど、あの横殴りの吹雪の中で彼に
「よく頑張ったな」
と頭を撫でられたのはよく覚えている。
それでどれだけ安心したことか。
で、何がなんだか分からないうちにソリのバスケットに放り込まれて、あっという間に走り出した━━━━━。
きっと私はあの時すでに、犬ゾリに魅了されてたんじゃないか。
啓さんの好きな、犬ゾリに…………。
「でも、犬ゾリはそんなことも忘れさせてくれたの。本当に本当に楽しくて、どんな遊園地よりも、どんな乗り物よりも、ずっと心が弾んで気持ちがいいのよ」
私の拙い言葉では、すべてを伝えることが出来ない。
でも少ないボキャブラリーの中から、言葉を選んで家族に伝えた。
「私はあの体験を、たくさんの人に知ってほしい。だから、あそこで働きたいの」
ガバッと勢いよく頭を下げる。
膝と額がくっつくくらいの気持ちで。
「お願いします!認めて下さい!元気でやってる、って心配かけないように連絡もします!繁忙期は無理だけど、そうじゃない時には休みをもらって帰るようにします!だから、私を北海道に行かせてください!」



