里沙がアイスココアを飲みながら、怪訝そうな顔で「そういえば」と首をかしげた。
「人手不足ってのはまだ解消してないわけ?結婚して辞めた人の代わりに誰か雇ったとかないの?」
「私が怪我した日の朝に、新しい人が入ったのよ。でも結局私が治療に専念せざるを得なくなったから、人手不足は変わらず……かな。もうすぐ夏休みシーズンも終わるし、次の繁忙期は真冬になるからしばらくは間に合うと思うけど……」
答えながら、新人の貴志くんがどれくらい成長したのかにもよるけど、と心の中で付け加えておいた。
「じゃあ新しい人が来たばかりってことは、もしも深雪があっちに戻っても、忙しいのには変わりないってことなのね」
少し不満そうな口調のお母さんは、きっと私の身を案じてくれているのだ。だからどうしてもちょっとキツい言い方になるのだろう。
それにお母さんが言ってることは間違ってなどいない。
そもそもテクラ・ドックスラッドは最低限の人数でやりくりしているため、1人欠員が出ただけでもかなりの痛手になる。
麗奈さんがいなくなったことで身をもって体感したことだ。
「それでも深雪は……、大変だと分かっていても、やっぱり戻りたいの?」
確認するようにお母さんが伺ってきた。
その目は不安げなままだった。
私は力強く、コクンとうなずいて見せた。
「戻って、働きたい」
「どうしてそんなに…………」
「私ね、犬ゾリに初めて乗ったのは、実は遭難したのを助けてもらった時なの」
「……………………遭難!?」
あまりにも不名誉なことだから、と言わないでいた話を、ついに家族の前でしてしまった。



