「毎日毎日毎日毎日、リハビリばっかり……。疲れるわよねぇ」


南田さんの口癖の「疲れる」は、もう何百万回聞いただろうか。
ヘルニアに比べたら私の膝蓋骨骨折なんて大したことはないのだと思うようにしている。
なにしろ南田さんはすでに3ヶ月入院生活を送っており、少なくともあと2ヶ月ほど続くらしい。


一方の私はというと1週間前からリハビリを開始し、まずは歩行訓練をしているといった具合である。
手すりに寄りかかりながら、一歩一歩少しずつ歩き、日毎に距離を伸ばしていく。


担当である理学療法士のお兄さんがなかなかのイケメンであることは置いておいて、私はスッピンでなりふり構わずにリハビリに励んでいた。


「南田さん、もしよかったらコレどうぞ〜。さっき売店で買ってきたんです」


松葉杖をつきながら苦労して買ってきたチョコレートのお菓子を南田さんにパスする。
彼女はパシッとしっかりそれを受け取ると「ありがとう!深雪ちゃん!」と嬉しそうに微笑んだ。


この1ヶ月で南田さんとはかなり仲良くなった。
二人部屋というのもあるけれど、お母さんと似たくらいの年頃なので話しやすい。
彼女もまた私を娘のように扱って気さくに話してくれるからありがたかった。


「で?紋別の彼には連絡したの?」


運ばれてきた昼食をとりながら、南田さんに尋ねられる。
1ヶ月間、話し相手が南田さんしかいないのも相まって、彼女に私の身の上話を包み隠さずに話してしまった。
両親や妹はたいてい夕食時の夜に面会に来るので、昼間はもっぱら南田さんとしか会話していない。


「連絡……は、してないです」

「あらまぁ!電話じゃなくてもメールしてみたら?彼からは連絡ないの?」

「無いです……」

「んもー!何やってるのかしらね、昨今の男は!」


味気ない鱈の煮つけを口に運びながら、私は苦笑いしか返せなかった。