しばしの間、犬たちと触れ合ったあとで台車に乗り込む。
その瞬間、私はマッシャーになるのだ。
4頭の犬たちが指示を待つように私の方へ顔を向けてくる。
「ハイク!」
いつもより声を張って指示をすると、犬たちは一斉に動き出した。
雑木林を抜けて、開けた場所に出る。
冬の間は雪景色のその場所も、今は緑が溢れて木々の生命力を感じた。
虫の声や、川が流れる音なんかもよく聞こえる。
それでも私は、やっぱり冬が好きなんだ。
犬ゾリに初めて乗った時の気持ちや、世界で自分だけみたいに感じるあの真っ白い空間がたまらなく好き。
啓さんが教えてくれたことは、数え切れないほどある。
だけど私はもらってばかりいたのかもしれない。
もしも東京に戻ったら、なんと言って両親を説得すればいいのか。
両親はちゃんと納得してくれるのか。
そもそも説得したところで、私はここに戻ってきてもいいのか。
戻ってこれないならそれでいいと思ってる啓さんに、また笑いかけたりできるのかな。
啓さんの本音が見えなくて、不安になる。
啓さんは、私のことを好きだと言ってくれたけど、それは今も同じ気持ちでいてくれてるの?
好きなのは私だけなんじゃないのかな。
余計なことまで考える。
スピードに乗って流れてゆく景色をぼんやり眺めながら、気持ちだけが沈んでいった。



