私は私の仕事をきちんとこなすようにしなければ、と犬舎から訓練犬を4頭連れ出す。
もちろんその中にはカイも含まれていて、彼は前よりも幾分か顔つきが凛々しくなった。
お客様に意味もなく吠えるクセも少しずつ改善してきているので、どうにか冬までには1人前にしてあげたい。
いつもの訓練コースへ出て、台車と犬たちを手早く繋ぐ。
夕方とは言え、夏の太陽はなかなか沈まないのでまだまだ夕暮れと呼ぶには程遠い景色だ。
しゃがんで4頭の犬たちと触れ合って、意思疎通をはかる。
「今日もよろしくね」とか「頑張ろうね」とか簡単なことだけど、これが重要だったりする。
特に訓練犬は甘えん坊が多いから、こうして「ちゃんと気にかけてるよ」と態度で示すのが一番いいらしい。
そう啓さんが言っていた。
ふとした時に啓さんに教え込まれたことが身についているのを実感し、ちょっと切なくなる。
彼はいつでも仕事に関しては手を抜かないから、私みたいにヘラヘラ笑いながら仕事するのをよく注意された。
カイの青い目が、啓さんの瞳と重なって見えてドキッとする。
そういえば、今日は目も合わせられなかったな。
目を細めてじっと撫でられているカイを、つい抱きしめる。
温かくて、耳を寄せると鼓動が聞こえた。



