青と口笛に寄せられて



その後、仕事に戻った私は新庄さんに元気になったことを伝え、笑顔全開でお客様に対応した。
なんでもないちょっとの疑問にも明るく答えて、笑いを誘う。


笑えているか不安だったけど、お客様が笑ってるんだからきっと私もうまく笑えているはずだ。


少し遅れて戻ってきた啓さんのことは一切見ることなく、お客様が帰るまで笑顔は絶やさなかった。


犬たちを犬舎に戻し、竹下さんと手分けしてたっぷりの水を飲ませる。
人間にも犬にも言えることだけど、夏場は水分補給が大事になってくる。
体験ツアー中にも水は飲ませるものの、忙しい時なんかは満足するまであげられないこともしばしば。
なので、お客様が帰ったあとに心ゆくまで水を飲ませるのだ。


竹下さんが宿の仕事を手伝うために犬舎を出なくてはならない時間になった。
時計を見ながら私に声をかけてくる。


「じゃあ、深雪ちゃん。あとは訓練犬のラントレお願いね。具合は大丈夫なのかな?酷い時は代わるから言ってね」

「はい、体調はバッチリです!お疲れ様です!」


明るく、心配をかけないように答えておいた。
今日1日ずっとこのテンションで頑張ったからか、顔の筋肉が引きつりつつある。
いつもなら笑顔でいるのなんて疲れないのに。
きっと心が疲れているからだ。