ソファーでウトウトしていたら、リビングのドアが開く音がした。
慌てて目を開けて体を起こすと、啓さんが息を切らして立っていた。
「体調悪いって聞いたけど、大丈夫?」
どうやら新庄さんに私の様子を聞いたようだ。
私が仕事を抜けた場面を見ていなかったみたいで、啓さんは心配して見に来てくれたんだ。
本当は色々悩んでしまって、それで具合が悪く見えたらしい、ということは胸にしまっておいた。
「あ、でももう平気です。仕事に戻ります」
「いいから休んでろ」
「貴志くんは?真面目にやってますか?」
制止する彼とは目を合わせないようにしながら、私はキャップをかぶり直して話題を逸らす。
そしてさりげなくリビングを出るためにドアの方へ歩き出した。
「あいつは俺が教えるから大丈夫だべさ。……深雪、もう少し休んでた方がいいわ」
啓さんが私の手を掴んで、無理に歩くのを阻止しようとした。
私はその手を振り払った。
「いいんです。私のことはほっといて下さい」
冷たい言葉を、口にしてしまった。
本心じゃない、と言えば嘘になる。
今、彼がどんな顔をしているのかは分からなかった。
それを確認するのが怖くて、私の視線は足元に落としている。
「私は…………ここにいちゃいけないんですよね、きっと」
「そんなこと言ってないべ」
「でもそう聞こえたんだもん!」
私は顔ごと彼から背けて、小さな声でつぶやいた。
「ちゃんと東京に帰ります。だから安心して下さい」
「……………………深雪」
啓さんが何かを言いかけたけれど、それより先にリビングを出た。



