その日の私の集中力は途切れがちで、お客様に対応している間も度々ぼんやりしてしまった。
おかげで新庄さんに「具合でも悪いんでない?」とか「熱中症だべか?」と心配されてしまい、お昼すぎに早々に家に戻された。
ボーッとしていたのは頭の中でぐるぐると考えごとをしていたからで、時折視界に映る啓さんを見ないようにつとめていた。
彼を見ると胸が苦しい。
あの綺麗な青い瞳で私を見ることがあったら、彼を責めてしまいそうで辛かった。
白いキャップを脱いで、誰もいないリビングの窓から外を眺める。
照りつける夏の日差しが地面を焦がす。
ほとんどの従業員は出払っていて、体験ツアーに訪れたお客様の対応で犬たちと共に広場へ行っているはず。
宿の従業員も、夕方から来る予定の宿泊客のために準備に忙しい時間帯だ。
そんな時に申し訳なかったけれど、少しだけ休ませてもらうことにした。
今戻っても、新庄さんにまた突っ返されるだけな気もしたので。
コップに水を汲んで、それを飲みながらソファーに腰かける。
東京にいた時には必死になって日焼け止めを塗りたくっていたはずの、顔や手。
それらはもはや真っ黒に日焼けしてしまって、あの頃の必死な抵抗はここに来てからは一切していない。
夏休みシーズンが終わったら、1週間くらい休みをもらおう。
そして、啓さんに言われた通りに東京へ戻り、家族としっかり話し合ってこよう。
そう決意した。



