私はここにいていいのだろうか。


そんな自問自答を繰り返しているうちに、新しい従業員の男の子がやって来た。


彼は3月に大学を卒業したばかりの23歳の人で、派手さはないものの真面目そうな印象を受けた。
身長はそんなにないけど、趣味が筋トレらしく「体力には自信あります!」と元気いっぱいだった。


名前は貴志くん。
私にとっては初めての後輩に当たる子。
「よろしくお願いします」とにこやかに挨拶を交わす。


啓さんが貴志くんに仕事の説明をひと通りすることになり、2人は別行動となった。


宿の仕事に関しては、引き続き貴志くん以外のメンバーでローテーションでやっていくことになったので、体験ツアーの仕事に慣れてきたら貴志くんにもやってもらう予定だった。


私が初めてここに来て仕事を教わった時のように、貴志くんもまたメモ用紙に啓さんの説明を一生懸命書き込んでいる。
きっと、啓さんはぶっきらぼうだけど丁寧に教えてあげているんだろう。


気がつくと啓さんのことばかり目で追ってしまって、これじゃダメだと自分に言い聞かせる。


でも、どうしてもこの間の夜のことが忘れられなかった。
遠まわしに、東京へ帰った方がいいと言われたあの夜のことを。