その日の夜、夕飯を食べている最中に一本の電話が掛かってきた。
手蔵家のリビングにある電話が鳴り続け、泰助さんが急いで受話器を手に取る。
「はい、テクラ・ドッグスレッドです」
取引をしている業者さんか、はたまたお客様からか。
この電話が鳴るとたいていその辺からの連絡が多いので、みんなそんなものだろうと箸を休めない。
すると、泰助さんの明るい声が聞こえてきた。
「えー!本当に!?いやいや、ぜひ来てほしい!えぇ、もちろん!」
裕美さんが泰助さんのそばに寄っていき、耳をそばだてる仕草をする。
みんなも何事かと彼らの様子を凝視していた。
電話を終えて受話器を置いた泰助さんが、嬉しさを抑え切れないといった顔で「やったぞ〜」と両手を上げた。
「ここで働きたいっていう子からの電話だったべ!冬に体験ツアーに参加したらしい。札幌の子だと」
「あら〜、それは良かったわ!即採用だわね」
「一応、来週の頭に履歴書持ってきてくれることになったけど、働くつもりで荷物持っておいでって伝えておいたわ」
「男の子?女の子?」
「男の子だよ〜。力仕事も任せられるし助かっぺー」
和やかな雰囲気でその場が盛り上がる。
政さんは「なんだぁ、男かよ」と残念がっているけれど、それでも圧倒的に人手が足りなかった今までを考えるとだいぶ楽にはなる。



