訓練用のコースに到着して、犬たちに声をかけて台車に乗り込む。
啓さんは私の様子を眺めていた。
「一緒に乗らないんですか?」
「うん、ここで見てっから」
「じゃあ、行ってきます」
なんだ、一緒に来てくれるのはここまでか。
残念に思いながら犬たちの方を向きかけた時、突然啓さんが台車に飛び乗ってきて私を後ろから抱きしめてきた。
あまりにも突然だったので、一瞬何が起こったのか分からずにアタフタして体が震えた。
私の落ち着かない手を、彼はギュッと握ってくれた。
「深雪」
「はいっ、啓さん」
「気をつけて行ってこい」
「は、はいっ」
「それから…………、もしも……、もしも。東京に戻りたいと思うことがあったら、自由にしていいから」
「はいっ…………。……………え?」
つい流れで返事をしたものの、なんのこっちゃと首をかしげる。
振り向いたら、啓さんは素早く体を離して台車を降り、地面に足をつけていた。
「啓さん、今のってどういう……」
「犬たちが待ってっから。早く行け」
聞き返す前に啓さんに急かされ、強制的に「ハイク!」と声をかけざるを得ずに犬たちが走り出す。
まだ彼の温もりが残っている両手で、ハンドルを握る。
心臓はドキドキしていたけれど、それよりも彼の言葉が気にかかった。
どうして彼は、あんなことを言ったのだろうか。



