もう少し彼とゆっくり話をしたかったけれど、啓さんは歩調を速めてさっさと行ってしまった。
まるで私たちが両想いになる前みたいに。
だから、私は彼の後ろをついていくだけで必死だった。
なんだか胸がざわついているような、ちょっとだけ嫌な予感がした。
そうだ、いつから啓さんとちゃんと話してなかったんだっけ。
麗奈さんが辞めてから、だ。
その間にキスでさえもしていない。
あの春にもらった連休で、私たちの想いが通じ合ったのは本当だったのかな。
まさか夢だったんじゃないのかな。
足早に歩いていく啓さんの背中を追いながら、ほんの少し切ない思いに駆られた。
「啓さん、待って」
小走りで彼に追いつくと、啓さんが思い出したように歩くスピードを少し落としてくれた。
「あぁ、ごめん」
「啓さん歩くの速いんですもん。私の足が短いから遅いのかなぁ」
「それは一理あるな。見ただけで分かるしょ」
「ひ、否定して下さいよ」
「事実だから仕方ない」
何気ない会話で、啓さんは笑ってくれた。
彼の笑顔はいつも通り。
なのに、どうして私の心はこんなにざわつくんだろう。



