みんな私のことは話に聞いてたみたいで、「あ、こんばんは〜」とか「よろしくね〜」とか、優しい言葉をかけてくれた。
ムスッとしていたのはヤツだけだった。


珍しい瞳の色と髪の色に興味を持っていた私は、親睦を深めてみようと早速話しかけてみる。
社交性はわりとある方だと自分では思っていた。


「あの〜、滝川深雪です。よろしくお願いします」

「よろしく」

「あの〜、お名前は……」

「…………井樋」

「イトイさん。ご年齢は?」

「27。ってかお見合いじゃないんだからさ。面倒くせぇわ」


ガーーーーーン。
この人、見た目と中身にものすごいギャップがあるぞ。
いやいや、さっき玄関で会った時に中身がけっこうアレだっていう片鱗は見え隠れしてたけど。


衝撃を受けていたら、他の従業員の方々が「いつものことだよ」とか言って苦笑いしていた。
いつものこと、ってヤバいでしょ。この中身。


そこへ裕美さんの容赦ない、細長く丸めた新聞紙が彼の頭に炸裂した。


「こらっ!啓くん!お客様への口の聞き方!何度言えばいいの!」

「…………ハイ」


さすがオーナーの奥様。
権力も威厳も備わっていて、有無を言わさぬ雰囲気を持っている。


余計に増してムスッとした顔の彼に、それ以上は聞けなくなった。
「どうして瞳が青いの?髪の毛は地毛?」って。


でも、私の心をいとも簡単に裕美さんが読み取ったらしい。
彼女は井樋さんの隣に座ると、ニコッと微笑んだ。


「啓くん、見た目変わってるでしょ?曽祖父にあたる人がカナダ人なんだわ。なんていうのかしら、クォーターが4分の1なら、彼は8分の1」

「8分の1……。なるほど」


あっという間に、むしろあっさり謎が解けた。