暗闇で、里沙の声だけが部屋に響いた。
なんだか不思議なくらいに静かで、そしてしんみりしていた。
「絶対東京に連れ戻してやる!って思ってたはずなのに、ここにいる姉ちゃんは想像以上に幸せそうで……」
布団の中から、ベッドの上にいる妹の顔をチラリと見た。
暗くてよく見えなかったけれど、どうやら仰向けに寝ているようだ。
彼女の言葉の続きを、ただ待ち続けた。
長い沈黙を経て、里沙が笑った。
「ふふ……、姉ちゃんさぁ、冗談抜きで超かっこよかった。犬たちと会話して、手なずけて、操る姿…………」
「全部、啓さんが教えてくれたの」
「そっか……」
「ここにいる犬ゾリ犬は、今は全て啓さんが訓練してるのよ」
「姉ちゃんがここにいたいと思う理由は、啓次郎さんがいるから?それとも仕事が楽しいから?」
「……………………どっちも、かな」
好きな仕事を、好きな人と出来ること。
それは今の私にとって、幸せを感じられること。
ゆっくり瞼を閉じようとしたところへ、里沙の小さなつぶやきが聞こえて「え?」と聞き返した。
彼女は繰り返すことはなく、
「なんでもない。おやすみ」
と言ってそれきり何も言葉を発することは無かった。
でも、私には確かに聞こえた。
「本当は、姉ちゃんがいないと私も寂しいんだ」
そう、妹は言っていた。



