お風呂から上がって、部屋に戻ったあとも里沙はチクチクと私へ「実家に帰ってこい」とイヤミったらしく言い続けた。
彼女が言いたいことは痛いほどに分かっていた。
確かに家族に何かあった時に、即刻駆けつけられるかと言われたらそれは出来ない。
仮にそれが真冬だったりしたら、大雪や吹雪で飛行機が欠航になることだってしょっちゅうある。
こんな言い方をするとアレだけど、下手したら親の死に目にも会えない可能性だってあるのだ。
とにかくこの話題を変えようと、違う話を振ってみる。
「明日は何時の飛行機で帰るの?」
「14時過ぎだったかな」
「じゃあ午前中のうちには紋別を出ないといけないね……」
里沙の紋別滞在時間は、24時間もないということだ。
なんとセカセカした短い旅行なのか。
もともと私に忠告するためだけに来たようなものなんだろうけど。
私も明日から仕事があるし、ある程度は彼女についてあげられるとは思うけれど今日ほどゆっくりも話せない。
話したいことは山ほどあるはずなのに、なぜだかそれが出てこないのだ。
時計も0時を過ぎたので、私は床に敷いた布団に、里沙はベッドに潜り込んだ。
電気を消して真っ暗にする。
なにも見えなくなった空間で、妹がボソボソと話し出した。
「色々文句は言ったけどさ」
「ん?」
「ここに来て、姉ちゃんの仕事に触れ合って、犬ゾリ……つっても台車なんだけど。アレに乗るまでは、こんな田舎の何がいいのか分かんなかったんだけど……」
里沙らしい感想で、思わず吹き出す。
そんな私をよそに、彼女は言葉を続けた。
「アレに乗って操縦してる姉ちゃんを見て、少しだけ思ったの。こんなに充実して生き生きしてる姉ちゃんは、初めて見たな、って」



