青と口笛に寄せられて



とりあえず入った大学で、とりあえず周りに合わせて生活し、とりあえず講義を取りながらバイトをして、とりあえず就職活動をして、とりあえず会社に就職した。
そんな私が、ようやく見つけたやりたいこと。


だけど、それはあまりにも自分本位だったということなのだろうか。


「せめてちょっと長い休暇もらって実家に顔出すとかさ。それくらいしてもいいんじゃない?お母さんたち絶対喜ぶから」


そう言って微笑む里沙は、きっと「ちょっと深雪の様子を見に行ってちょうだい」とお母さんに頼まれた程度なのだ。
けれど、毎日のように私のことを心配しているのを見ていたから、せめてほんの少しでも帰って顔を見せたらいいと彼女なりのアドバイスを付け加えたに違いない。


こんな話を聞いたら、それはいくら私だって実家に少しの間だけでも帰りたいとは思う。
思うんだけど、今はどうにもならない状況なわけで━━━━━。


「帰れないの。結婚で辞めちゃうスタッフがいてね、ほらご飯の時にいた綺麗な女の人!麗奈さんって言うんだけどね、結婚するのよ、啓さんのお兄さんと!見たでしょ、隣にいた超イケメン!それで辞めることになって……」

「で?人手が足りないから帰れないって?」

「う…………、はい」


最終的には妹相手に敬語になってしまった。
なにしろ里沙の威圧感と言ったら尋常じゃない。


しょんぼりした私に、彼女は呆れたように腕を組んで目を細めてきた。


「じゃあいつなら帰ってこれるのよ。どうにかしてもらうように、私から啓次郎さんに言っておくから!」

「それはやめてよ〜、啓さんだって困っちゃうだろうし……」

「おばあちゃんが危篤だって嘘つけば?」

「嫌だよ、そんな嘘……」


このまま話していても、どうやら平行線を辿りそうだ。


ひとまず私と里沙はお風呂から上がることにした。