青と口笛に寄せられて



やっとのことで体を起こした妹は、ぐんぐん加速していく台車の縁にしがみつきながら目をまん丸にして前方の景色を見ていた。
それは、恐怖とか不安とか、彼女が台車に乗り込む時に見せていた表情とは180度違うものだった。


感動の表情。


「な、なにこれ〜!ヤバい!超楽しいんだけど!!」


緩く棚引く髪の毛を片手で押さえながら、必死になって辺りの景色を見渡す里沙。
私と再会してから一番の笑顔だった。


「景色がめっちゃ綺麗!風も気持ちいい!」

「ふふふ、でしょ?」


さすが我が妹。
素直に反応してくれてこっちまで嬉しくなる。


「これがちゃんとしたソリで、雪景色だとなお感動するんだよ。いつか里沙にも見せたいよ」

「見てみたい!」


6頭の犬の、地面を蹴り上げる音。
軽快な息遣い。
ゴロゴロと音を立てる台車。
北海道に訪れた春の優しい風。
ほんの少し残った雪と、美しい青々とした緑。


自然の中に、私と里沙と、6頭の犬たち。


犬の持つパワフルな力をこんなにも体で感じて、大自然を駆け抜ける。
風と一体になって、どこまでも遠いところまで行けそうな気さえしてしまう。


ソリほどの速度は出ないけど、じっくり景色を堪能できることで全てを補えていた。