青と口笛に寄せられて



「姉ちゃん、めちゃくちゃ慣れてるね……」

「ハーネスの付け外しは毎日やってるもの。最初は全然出来なかったけど、どうにか今はね」

「犬は怖くないの?」

「なんで怖いのよ?ほら、みんな尻尾振って喜んでるじゃない」


檻から順に出していった犬たちが、まだかまだかと急かすようなキラキラした瞳を私たちに向けている。
尻尾はパタパタ、お目目もキラキラ、息遣いも速い。
走りたいんだなぁ、と思わせる仕草。


犬たちを若干怯えた目で見つめる里沙が、おそるおそる一際大きい体の子を指さす。


「なんか超でっかい犬もいるけど、ハスキー犬ってこんなんだっけ?」

「それはシベリアンハスキーじゃなくて、アラスカンマラミュートっていう犬種なの」

「は?見た目は完全にハスキーじゃん」

「うん。大きさが違うのよ。あと尻尾も違うわよ?」

「よく分かんないんだけど」


無理もない。
私だってここに来てから勉強と実践と経験を重ねて、ようやくスラスラ仕事のことを話せるようになってきたのだから。


「ま、とにかく力持ちな子なのよ、アラスカンマラミュートって。あとは台車を倉庫に取りに行くね」


1人で犬6頭を携えると、だいぶ絵面が凄まじい。
だけどみんな啓さんによくしつけされているおかげで、リードを絡ませたり無駄吠えする子はいない。


「2人とも気をつけてね〜!」


と後ろから政さんに声をかけられて振り向くと、ブンブン手を振る彼の隣で啓さんが微笑んでいた。
きっと、「楽しんでこいよ」って言ってくれてるような気がした。