その道中、里沙は見事なまでにマシンガントークを運転中の啓さんに向かって後部座席からガンガンぶっ飛ばしていた。
私はそれを黙って、時に止めるように彼女の肩を掴んだりするけどちっとも伝わらない。
途中からは止めるのも諦めた。
「姉ちゃん、きちんと仕事出来てます?もうそれが妹である私の唯一の心配事で。なにしろ前の仕事、彼氏と別れたっていう理由だけで辞めてますからね。しかも社会人としてあるまじきことに、辞めるって言ってすぐ辞めるやつ。そんなんで北海道に住むって連絡来た時は、さすがに家族全員姉の精神状態を心配しちゃいましたよね。でも電話とか無駄に生き生きしちゃってるし、どんな感じなんだろーってずっと気になってて。ね、啓次郎さん。聞いてますか?」
「……………………聞いてる」
「犬も飼ったことないのに、犬ゾリ体験ツアーのガイドって務まるものなんですか?昔っから大して運動神経も良くなかった姉ちゃんなのに、大丈夫なのかなーって」
「まぁ、どんくさいことは確かだべな」
「あはは、ですよねー!知ってます?姉ちゃん、高校の時のマラソン大会、後ろから5番目でゴールしたんですよ〜」
「全身筋肉痛にでもなってたんしょ、どうせ」
「け、け、啓さーーーん!!」
最後の叫びだけは、私のものです。
「筋肉痛のことはいいですからっ!里沙も余計なこと言わないで!」
ビシッと姉として里沙をコントロールしちいところだけど、それは生まれてこの方うまくいったことなどない。
彼女はフンと鼻を鳴らして、わざとらしく私から顔を背けた。
「今はつば九郎は誰と見に行ってるんだ?」
啓さんのそのたったひと言の質問に、里沙は「えっ!」と声を上げる。
「姉ちゃん!勝手に個人情報漏らさないでよ」
「里沙もだいぶ私の個人情報漏らしてると思うんだけど……」
嫌味ったらしく睨んでくる妹のバッグに、つば九郎のストラップがついていることはあえて突っ込まなかった。



