2階にある6畳ほどのフローリングの部屋に通された私は、ひとまず荷物を置いて着ていた白いダウンコートを備え付けのクローゼットに入れさせてもらった。
従業員用の部屋というだけあって、ベッド以外の物は何もない。
空いている、と言っていたから、今は誰も使っていないようだ。


カーテンが開いたままになっていたので、窓に近づいて閉めようと手を伸ばす。
そこで、外の景色に視線を移した。


窓枠にも雪が積もっていて、この部屋から見える屋根にも大量の雪。
見渡す限り雪、雪、雪。
夜だから真っ暗闇のはずなのに、雪があるせいで明るく見える。


不思議だ。
同じ日本なのに、ここはまるで東京とは違う。
非現実の世界へ来たみたいだ。
ここは、恋人が浮気をするような汚い世界じゃない。
あの世界には戻りたくない。
もう惨めな思いはしたくない。


下を見やると、さっきの男の人がこの家に向かって歩いてきているのを見つけた。
ブルーのダウンがやけに目立つ。


あの時、一瞬見えた彼の顔。
いや、彼の瞳。
その瞳の色に驚いた。


ダウンジャケットと同じ、ブルーの瞳だった。


顔は日本人そのもの。
まぁ、ぶっちゃけて言うとなかなかの綺麗な顔立ちはしてたけども。
そのへんの男の人よりもよっぽど目を引くっていうか。
例えば前に働いてた会社とかにいたら、たぶん怜よりも断然モテそうな顔。


だけど、瞳の色が青いなんて。
あれには驚かされた。
まさかとは思うけど、カラコンをしてるとか。
色素の薄いアッシュグレーの髪の色。


あんな風に見えて、本当は外人?
それとも外人風の日本人?


長めの前髪が邪魔で、じっくり彼の青い瞳を見ることが出来なかった。
ちゃんともう1度しっかり見たいな。


━━━━━ハスキー犬のような、あの青い瞳を。


窓から彼の姿を眺めながら、ついさっき見たビー玉みたいな綺麗な瞳を思い出していた。