青と口笛に寄せられて



もうほとんど雪解けも進み、建物の陰になる場所や日当たりの悪い所には雪も残っているものの、歩くのに苦労することはほぼ無い。
東京に住んでいた頃の私だったら、きっと雪なんて早く解けてしまえ!と思っていた。
だけど今は、雪が恋しくて仕方ない。


「啓さん、もう雪は降らないですか?」

「なんで?」


道路に少しだけ残る雪を眺めて、不思議そうな啓さんにつぶやく。


「早く、犬ゾリに乗りたいです」


辺り一面真っ白の、キャンバスのような景色が懐かしい。
パウダースノーが足に絡まり、手に触れると解けていくあの感覚が忘れられない。
そしてなによりも、犬たちに引かれてソリで駆け抜けるあの疾走感。自然の中を突き抜けていく爽快感。


また味わいたくて、日毎に消えてゆく雪の気配に寂しさを感じる。


妙にしんみりしていたら、啓さんがいつもの落ち着いた口調で当然といったように口を開いた。


「春が終わったら、夏が来て、秋が来る。そうすれば冬が来るから、雪も大量に降っぺ」

「……それくらい知ってますよ〜」

「焦るなって。季節は待ってれば巡ってくるんだから。それまでにカイをちゃんとした犬ゾリ犬にするって言ってたしょ」

「そうでした。待ち遠しいですね、冬が」

「気が早いな」


啓さんは呆れていたけど、私は本気だった。


北海道の冬は、思っていた以上に寒くて厳しい。
だけどその分、楽しいことが待っているんだ。
それまで、私にやれることをやらなくちゃ。