「あ、深雪」


呼び止められて、私はドキマギしながら彼の方を振り向いた。
……が、啓さんは私のことは見ていなかった。
彼の視線は下を向いていて、何かを凝視している。


なんだなんだ、と思ったら。
さっきバスタオルで厳重に包んだはずの替えの下着が床に落ちていた。


淡いオレンジ色の、パンツ。


「ぎゃあああああああああああああ!!」


自分としては最速の動きで、急いでオレンジ色のそれを回収して真っ赤になった顔をバスタオルで隠して浴室に飛び込んだ。


もうやめてーーー!
こんな生き地獄の中で一晩過ごすのは無理ーーー!
これがひとり部屋だったら「パンツ落ちちゃった〜」とか独り言でもつぶやいてひょいと拾えるのにー!
何が悲しくてこんな目に遭わなきゃならないのー!


熱い熱いシャワーに打たれながら、このまま気づかれないように姿を消すことが出来たらどんなにいいかと思った。
彼女がいる人と同じ部屋に泊まるって、もはや犯罪だ。

元はといえば私が怜と別れたのだって浮気されたのが原因だし。
それと似たようなもんじゃないか。


ぐるぐる目まぐるしく考えが頭の中を駆け巡る中で、この状況を打開する方法を考える。
しかしながら私のようなちっぽけな女にそんな素晴らしいアイディアなど思い浮かぶはずもなくて。
さっき大量購入したお酒を吐かない程度に飲んで、そしてそのまま寝るということくらいしか実行できそうになかった。