そうだ。
飲み終わったお酒の空になった缶を、ベッドの間に積み上げて壁にするのはどうだろう?
枕よりよっぽどいい気がしてきたぞ。


くだらないことを考えながらホテルの部屋へ戻る。
足取りは重い。


嫌だなぁ。
もしかしたら、啓さんから麗奈さんにこういう状況になった、って連絡してるかもしれない。
そうしたら明日紋別に帰った時に麗奈さんが怒ってきたりしないだろうか。
私と啓さんの間に何も無いのは当たり前だけど、恋人の立場からしたら不安しかないよね、この場合。


部屋の前に到着し、鍵を開けてドアを開く。
入口を入ってすぐ右にある扉から水音が聞こえてきたから、おそらく啓さんがお風呂に入っているのだ。


とりあえずコンビニで買ってきた袋をテーブルに置いて、窓際のベッドに腰を下ろす。
啓さんがいない今のうちにバスタオルに替えの下着とか諸々を包んで、お風呂の準備を済ませておいた。


もう何もかもが気まずい。
そこまで純情でもない私の妄想も止まらない。
早くお酒をくれっ!!


深夜ドラマを見て気を紛らわしていたら、しばらくして啓さんが浴室から出てきた。
その姿を見て飛び退いた。


じょ、上半身が裸!!


「次どうぞ〜」


あくまでも普通に振舞っている啓さんは家から持ってきたらしいスウェットを履いていた。
バスタオルで髪の毛を拭いていて、いつも綺麗なアッシュグレーの色は濡れているからか真っ黒に見えた。


それにしても、引き締まった上半身と漂ってくる色気!
これは大変だっ!
目のやり場がどこにも無い!
無理無理無理!


「これはこれはどうもどうも。失礼しますっ」


自分でもよく分からない言葉をつぶやいて、用意していたバスタオル諸々をかかえて啓さんの前を通過する。