とにかく、何か手違いが起こって予約の取り違いになったんだろう。
啓さんはそう踏んだらしく、フロントのカウンターに手をついて身を乗り出すように訴えた。


「じゃあ今から変更ききませんか?シングル2部屋に変えてもらいたいんです」

「確認致しますので少々お待ちいただけますか?」

「はい」


カタカタと手元のパソコンで部屋の空き状況を確認している女性を横目に、啓さんが私の方を見もせずに命じてきた。


「深雪。政に電話して確認しろ」

「は、はいっ」


もはや仕事の時のように元気よく返事をしてしまった。
だって啓さん、相当イラついてるんだもの。怖すぎる。威圧感がすごい。
手早くポケットから携帯を出して政さんに電話をかける。


すると、場違いな明るい政さんの声が電話越しに聞こえてきた。


『もしもーし!こちら恋のキューピッド政信でーす!』

「………………あのぅ……」

『深雪ちゃん、どうどう?啓とはうまく行ってる?』


楽しくてたまらないといった政さんのウキウキな声が、目の前にいる鬼のような啓さんとあまりにも正反対でそれが恐ろしさを駆り立てる。


「いえ……、トラブル発生で閻魔大王になってます」

『あっはははは、マジ?』


本物の閻魔大王になりかねない啓さんに背を向けて、私はコソコソと政さんと会話する。