青と口笛に寄せられて



その日の日本ハムは打線の調子が良く、大量得点だった。
二桁に得点が乗り、ホームランも3本も飛び出した。
打球がそばまで来た時は興奮したけど、本気でキャッチしようとしていた啓さんがちょっと面白かった。


彼は別に大声で応援歌を歌うこともしないし、手を叩いて応援することもない。
ただただ冷たいビールを飲みながら家で観ているときのように観戦し、チャンスで楽しそうな顔をし、ピンチで眉をひそめ、点が入ると笑う。
むしろどちらかと言うと私の方がリアクションが大きくて、隣のカップルに「おねえさん、ノリがいいねー」って褒められたほどだ。


試合も8回の終盤にさしかかった頃、隣の啓さんが小声で話しかけてきた。


「そろそろ出るべ」

「え?出るって…………。試合は?」


まだ終わってないのに、いいのだろうか?
はてなマークが全面に押し出ている私をよそに、帰る準備をしつつ彼が答える。


「もう試合は決まったしょ。本来なら最後まで見ていきたいところだけど、今日はこれからはちきょうに行くって言ってたからな」

「あ!」


そうだ、そうだ。
居酒屋のはちきょう。そこには絶対行ってみたかったんだ。
あと、侍プリンもテイクアウトしなくちゃ。


慌てて飲みかけのレモンサワーを飲み干して、啓さんと共に騒がしいドームをあとにした。
B・Bのグッズは、またいつか観戦に来た時に買おうとこっそり思ったことはここだけの秘密だ。