犬舎の前まで来て、音の正体が分かった。
どうやら犬舎の扉が開きっぱなしになっていたらしい。
それで風に煽られて開いたり閉じたりを繰り返してカタカタと音が鳴っていたようだった。
ホッと胸を撫で下ろして、扉を閉める前に一周して犬たちの様子を見ていこうと中に入った。
昼間と同じ。
犬たちは思い思いに過ごしている。
寝ている子もいれば、私に気づいて尻尾を振っている子もいるし、大人しく伏せている子もいる。
私の一番のお気に入りの、訓練犬カイ。
奥の檻の中からじっと私を見つめているのがよく分かる。
最初に会った時から、カイは私に懐いていた。
それは、とても珍しいんだと泰助さんが言っていたのを思い出す。
彼は犬ゾリ犬としては申し分ないらしいんだけど、従業員以外の人がマッシャーになると吠えてしまったりするんだそう。
とてもそんな風には見えない優しい目をしているというのに。
きっと少しだけ、他の犬よりも警戒心が強いだけなんだよね。
カイの檻の前まで行くと、ゆっくり立ち上がってそばまでやって来た。
すり寄るように檻のギリギリ手前まで体を近づけてくる。
触って、と言っているみたいで頬が緩む。
シベリアンハスキーの青い目は、鋭くて、奥深くて、そして優しい。
暗くても分かるほどに。
カイの頭を撫でながら、啓さんのことを考えていた。
啓さんってカイみたいだな、と。
一見すると取っつきづらいけど、ちゃんと向き合うとこんなにも温かい。
冷たいように見えてそうじゃないところも、警戒心は強いけど認めれば優しくしてくれるところも、カイにそっくりな気がしてならない。
「どうすれば好きになってくれるかな、カイ」
真っ直ぐに見つめるカイに話しかけていると、不意に突然明るい一筋の光が足元に伸びてきた。



