その日の夜。
ベッドに横になりながらいつものように携帯でシベリウスのフィンランディアを聴いていた。
子守唄みたいに、この曲を何度かリピートしているうちに眠くなる。
そしてピアノの優しい響きに包まれながら眠るのだ。
ちょっとウトウトしてきたところで、音楽を止める。
電気を消して布団に潜り込んだ。
そこで、外から妙な音が聞こえることに気がついた。
なにやらカタカタという金属音のような、不思議な音。
体を起こしてベッドから降りて、カーテンの隙間から窓の外を眺めてみる。
風が強いらしく、木が大きく揺れているのはよく分かった。
だけど、それだけ。
カタカタという音は続いている。
一応様子を見に行ってみよう、と適当にパーカーを羽織って部屋を出た。
真っ暗な廊下に、真っ暗な階段。
もうみんなほとんど寝てしまったのだろう。
なるべく物音を立てないようにして歩を進め、玄関でブーツを履いて外に出た。
ヒュッと強い風が全身を撫でて寒気が走る。
春とは言ってもまだ夜はかなり冷え込む。
羽織っただけのパーカーに埋まるようにして小走りで音のする方へ向かう。
さっきの不思議な音は犬舎から聞こえているような……。
辺りは真っ暗で、雪はまだ残っているけれど真冬のような雪の明るさは無い。
足元に気をつけながら犬舎に近づいていった。



