青と口笛に寄せられて



お風呂上がりのふやけた顔で、その濡れた明るい茶髪をバスタオルでゴシゴシ拭きながら笑顔で私に近づいてきたのは政さんだった。


「お、深雪ちゃん!休みの日に観光でも行くの?案内するよ?」

「ありがとうございます。せっかくだから色々行ってみたいなって思ってて……」

「行きたいところは?」

「スープカレーの美味しいお店と、雪印パーラーと小樽のルタオと、札幌のはちきょうと……」

「………………全部食べ物だね」


しまった、これは完全に無意識無自覚だった。
食いしん坊か、私は。
観光に行きなさいよ、全くもう。
自分自身にツッコミを入れる私に、政さんは面白そうに吹き出していた。


リビングには裕美さんと啓さんと竹下さん。
裕美さんはキッチンにスツールを持ち込んで、何やら書き物をしているのか顔も上げない。
カウンターに仕切られていて何をしているのかは詳しくは定かではない。
啓さんと竹下さんはソファーに腰かけてプロ野球中継を見ている。


「札幌ドームに行きたいって言ってたしょ。日ハムの試合見てみたい、って」


政さんの言葉に、ちょうど日本ハムの試合中継を観戦していた啓さんと竹下さんが私たちの方を振り返る。
竹下さんが意外そうに微笑んだ。


「へぇ、深雪ちゃん野球好きなの?」

「東京にいた頃に、時々巨人とかヤクルトの試合は観に行ってて。妹が大のヤクルトファンなんですよ」

「そっかー!妹さんは誰のファンなの?」

「つば九郎です」


ブッと啓さんがこらえ切れずに笑ったのを見逃さなかった。ゲホゲホと咳払いしてごまかしている。


「啓、日ハムの試合に連れてってやったらいいさ。お前ファンクラブ入ってるしょ?今年も観に行く予定なんだろうから」


まだ咳をしている啓さんに、政さんが爽やかスマイルで迫る。
なるほど、啓さんの休みはきっとプロ野球の観戦に使われるんだということをこの時知った。