「めちゃくちゃウケたわ、深雪ちゃんの元彼の必死な形相!」
政さんがアハハハハと大声で笑いながら戻ってきたのは、体験ツアーも終了間際という頃だった。
超ゴキゲンな犬たちが、同じくゴキゲンな政さんをマッシャーにしてソリを引いていた。
よく見るとバスケットの中に丸まるようにして座っている怜がいた。
辺り一面真っ白の雪原に放り出された怜は、あれからしばらく一人ぼっちにされたらしい。
その間の政さんはロッジへ戻り、ぬくぬくとコーヒーを飲んでのんびり過ごし、そろそろいいかと再び犬ゾリで怜の元へ。
怜は放置した場所より南東に数百メートルほど移動していたらしいんだけど、政さんが難なく見つけて保護。
その時の怜はすがりつくように政さんの足に絡みついて離れなかったようだ。
「訴えてやる……」
おそらく泣いて出た鼻水が凍っているらしい怜の顔。
東京で付き合っていた頃とはかけ離れた、だいぶ情けないものになっていて思わず笑ってしまった。
「ダイヤモンドダスト、凄かったでしょ?」
「ホワイトアウトだよっ!」
「あははははは」
笑いが止まらない私に代わって、啓さんが笑顔で怜に声をかける。
「特別コースはいかがでしたか?今回だけ無料に致しますので、興味がおありでしたらいつでもまたいらして下さい」
「死んでも来ねぇよ!」
営業スマイルの啓さんに言い返した怜が、キッと私を睨みつけた。
「来て損した!お前なんか一生田舎に埋もれて暮らしてろ!」
「言われなくてもそうすっから〜、ね?深雪ちゃん!」
私の後ろにいた政さんが先に答えて、同意を求めるように肩に手を置く。
怜はバツが悪そうにチッと舌打ちしたあと、他の観光客に混ざって私たちの元からいなくなった。



