青と口笛に寄せられて



結局、怜は私になかなか話しかけてこなくて。
ソワソワしながらその時を待ったけど一向に訪れることは無かった。


犬ゾリで移動して、ロッジの中でみんなで温かいお昼ご飯を食べて、お客様たちと何気ない会話を楽しんだ。
そうしているうちに、ひとつの考えが頭に思い浮かんだのだ。


もしかして、もしかして。
単純に犬ゾリに興味を持ってやってみたいって思っただけとか?
元カノが犬ゾリ体験ツアーで観光客相手にガイドみたいなことをやってる、って聞いて、それで思い立ったとか。


いや、さすがにそんな都合のいい話があるわけは……。


ぼんやり食器の片付けを簡単にしていると、ワイワイ盛り上がる一角から


「深雪、ちょっといいかな」


という声が聞こえた。


シンクにガチャンと音を立てて食器を置いてしまった私は、慌てて振り返る。
きっと思い切って声をかけてきたのであろう、怜がこちらへ近づいてくるところだった。


「あ、あぁっ、怜!久しぶり!」


さも今気づいたかのように返してしまった。
咄嗟のことで、とぼけるという返事を選んだ自分を呪いたい。
下手な芝居なんかするもんじゃない。


ヤツの顔を見ていたら、なんか色々走馬灯のように思い出してきた。


自分のアパートの玄関に綺麗に並べておいてあったヌーディーピンクのパンプスとか、ドアを開けた時の怜と山田の驚いた顔とか、部屋を飛び出したあとの東京の空の明るさとか。