数日後、カレンダーに記された土日を挟んだ連休。
その中日に、私を悩ませる張本人が姿を現した。
その姿を見るまでは、どうか夢であって欲しいとか、何かの間違いだとか、そんなことを願い続けていたんだけど。
やはり現実。
観光客の受け入れ準備を終えて、彼らがスタンバイする場所へ思い足取りで向かう。
足に鉛でもついてるんじゃないかって勘違いするほどに、それはそれはゆっくり歩いて向かった。
「深雪ちゃん、大丈夫?」
政さんが心配そうに声をかけてくる。
苦笑いを返すくらいしか、うまい返事なんかできなかった。
私の元彼が犬ゾリ体験にやって来るという話は巡り巡って従業員全員に知れ渡り、普段は宿の雑務を担うためほとんど会うこともない種田さんさえも私を心配してくれたほどだ。
ニット帽を目深にかぶり、ソリに乗るわけでもないのにゴーグルを装着。ネックゲイターで鼻と口を覆い、もはや顔はどこも露出していない。
その状態で向かった先に、ヤツはいた。
短い黒髪をしっかりセットした、見覚えのある後ろ姿。
身長は高くはないけれどバランスのとれた体型で、スーツが似合うその男。
浮気なんてするわけがないって信じていた、私の元彼。甲本怜。
北海道に来るにしてはちょっと薄手の黒いダウンを着て、グレーのマフラーをぐるぐる首に巻いて寒そうに身をすくめていた。
先に到着していた啓さんが、私と政さんが来たことに気づいて目を合わせてきた。
私よりも先に政さんが小声で啓さんに声をかける。
「ピンと来ちゃった〜。あいつだべ」
「そういうこと」
啓さんは青い目をキョロっと動かして私に視線を変える。
「今からそんな重装備でどうすんだ。どうせバレるなら最初からの方がいいしょ」
「い、いやでも……」
「あの人の担当は政にしておいたから、深雪も必要以上に話すことはないだろうし」
「あ、配慮ありがとうございます」
どうしようか迷ったけど、仕方なくゴーグルだけは外して額に上げた。
怜がこちらを見たような気がしたけど、気づかないふりをして顔を背けた。



