「心なしか深雪ちゃんのマッシャー姿が板についてきた気がするよ」


ソリから降りて、ソリは私が引いて犬たちのリードは政さんが引く。
2人で並んで歩きながら彼が優しく微笑んでくれた。
何気ないその言葉が何よりの褒め言葉に聞こえてしまって、ついつい声が大きくなる。


「本当に!?すっごく嬉しいです!」

「君は凄いよ。あの啓に教えられてるんだから。口も悪いし愛想ないし、怖いんでない?」

「怖くはないですよ。たま〜に褒めてくれるし」


最初の頃はどうしたもんかと思うこともあったけど。
働くことになった初日の夕方に、今も身につけているカーキ色のネックゲイターをプレゼントしてもらったことが印象深い。
「よく頑張ったな」って笑ってくれた。
あの言葉と垣間見えた優しさで、頑張ろうって思えたのだ。


「東京の女子は肝が座ってんだべか。もしくはドM?」

「違いますっ」


話しやすいのは政さんだけど、時々こういう失礼なことを言ってくるから対応に困る。
さすがウィンタースポーツのインストラクターをやってるだけあって、話し上手に聞き上手。
この人は間違いなくモテるタイプだ。


「もうすぐ犬ゾリシーズンも終わっちゃうね〜」


ボソッとつぶやいた政さんの言葉に、私はズンと心が暗くなっていくのを感じた。
犬ゾリシーズンも終わり……。寂しすぎる。


「まだまだ雪もあるのに、もったいないですよね……」

「いや、そうじゃないよ!」


政さんは軽い足取りでスキップでもしそうな勢いで高らかに笑った。


「やっとのんびり出来る季節がやって来るんだよ!デートしよ、デート!」

「またそれですかぁ」


もうここ最近の彼の決まり文句「デートしよう」。
一体何人の女の子に同じセリフを言っているのか。
周りも呆れているくらいだ。