「痛ッ」と悲鳴を上げて両手で額を押さえると、その手をガシッと掴まれた。


そして、耳元に口を寄せられて、ハッキリと聞こえた。


「シベリウスの、フィンランディア」


さっき食事中に政さんにも似たようなことをやられたけれど、それの比じゃないくらいドキドキしてしまった。


ゆっくりとした動作で啓さんが手を離し、自動的に私も両手を下ろす。
おそらく顔は赤いと思われる。
パチクリ目を瞬かせる私を近い距離で青い瞳がとらえ、悪口にも似た言葉を吐いた。


「今度は聞こえたか、難聴オンナ」

「………………聞こえました」

「答え合わせ」

「……シベリウスのフィンランディア」

「正解。というわけで、おやすみ」

「お、おやす、おやすみな」


しどろもどろになっているうちに、バタンとドアが閉まる音がして私は1人廊下に突っ立っていた。









恋愛自粛中とはどこへやら。


完全に恋に落ちた模様。