誰だって、最初からなんでもうまくできるわけじゃない。

実際自分だって就職してしばらくの間は、なかなか契約がもらえなくて苦労していた。

自分を変える努力をして、どうすれば分かりやすく説明できるのか、安心して任せてもらうにはどう接すればいいのかを考えた。

そうして粘り強く続けていくうちに、話を聞いてもらえるようになり、お客さんとの信頼関係もできて、契約してもらえるようになった。

(なるほど…。何事も積み重ねが大事か…。)

経験のない事を努力もせず“できない”と言うのは簡単だ。

けれどそのままでは、一生できるわけがない。

だったら、できる他人とできない自分を比べて落ち込んだり妬んだりする前に、少しでも知って理解する努力をしてみようか。

苦手だと思っていた事も、やってみると案外得意になるかも知れない。

(俺も頑張ればそのうち、愛美に御飯作ってあげられるくらい上手になれるかな?)



愛美の部屋に戻って、早速二人でキッチンに立った。

“政弘さん”が包丁を持つのは中学の調理実習以来だ。

一人暮らしを始める時に用意はしたが、一度も使った事がなかった。

愛美は“政弘さん”に包丁の正しい持ち方や、包丁で切る時の食材の押さえ方を教えながら、どんどん鍋の準備を進めた。

結局“政弘さん”は、椎茸と長ネギをほんの少し切っただけだったけれど、何もしないよりはずっといいと思った。

鍋の準備を終えた愛美がタオルで手を拭きながら、ニコニコ笑って“政弘さん”を見上げた。

「一緒に料理をするのも楽しいですね。今度、政弘さん用のエプロン買いに行きましょう。」

「愛美とおそろいのがいい。」

「だったらフリルのいっぱいついた、キュートなエプロンにしましょう。」

「……それは愛美だけでいいや。」